研修委員長 高山 章子
講 師:弁理士 保科 敏夫 先生
[はじめに]
特許実務においては、発明者から示された技術内容をどのように捉え、どこに発明の本質を見出し、どのような形で権利化につなげていくかという判断が、弁理士の重要な役割の一つです。一方で、日々の実務の中では、こうした特許実務の根本について改めて立ち止まって考える機会は、意外に少ないのではないでしょうか。
そこで今回の研修では、保科敏夫先生を講師にお招きし、「特許実務の面白さを探ろう―『切り餅』の事例を通して―」をテーマとして、広く知られた「切り餅」の特許事件を題材に、発明の把握から出願・審査を経て権利が成立するまでの過程を振り返りながら、特許実務の本質について参加者とともに考えました。研修の趣旨としても、権利発生までの動きの中に討議事項を見出し、参加者と講師との意見交換を通じて、弁理士業務の本来の喜びを再考することが掲げられていました。
[講義の内容]
本研修では、「切り餅」の特許について、発明者から示されたアイデアをどのように把握し、先行技術との相違を見出して「発明」として浮かび上がらせるのかという、出願前の段階から検討が始まりました。発明者へのインタビューで何を確認すべきか、また、そこで得られた情報をどのように発明として捉え、特許請求の範囲に落とし込んでいくかについて、参加者を交えて議論が行われました。
続いて、特許請求の範囲の意義、審査官とのやり取りや補正の意味、新規事項追加の判断など、実際の審査経過をたどりながら、それぞれの場面で弁理士がどのような判断をすべきかについて意見交換が行われました。
また、クレームにおいて「構成」と「機能」をどのように表現するかについても活発な議論がありました。構成を具体的に限定して記載することで、権利範囲が狭くなる場合がある一方、機能的な表現を用いた場合には、権利行使の場面で、その機能の充足を確認・立証することが難しい場合もあります。また、機能的な表現についても、機能のみを抽象的に捉えるのではなく、構成との関係を踏まえて検討する必要があるとの意見が出されました。さらに、米国におけるmeans-plus-functionの取扱いなども含め、出願国や将来の権利行使まで見据えたクレームのあり方についても議論が及びました。
今回の「切り餅」の事例を通じて、発明の本質をどこに見出し、それをどの程度具体的な構成として記載するのか、あるいは機能として表現するのかという、特許実務の根本的な問題について改めて考える機会となりました。
[所感]
当日は16名程度が参加し、若手からベテランまで幅広い世代の会員が集まりました。無名会のみの研修であったこともあり、終始和気あいあいとした雰囲気の中で、参加者から率直な意見や疑問が次々と出されました。
特に印象的であったのは、「この場面で自分なら発明者に何を聞くか」「この発明をどのように捉えるか」「この補正をどう考えるか」といった、日頃の実務に直結する問いについて、経験年数の異なる参加者がそれぞれの立場から意見を交わしたことです。単に著名な事件の経緯を振り返るのではなく、発明とは何か、弁理士は発明者から何を引き出し、それをどのように権利として形にしていくのかという、特許実務の根本に立ち返る議論となりました。
また、経験豊富な先生方の実務経験に基づく意見と、若手会員の率直な疑問や視点とが交わることで、参加者それぞれが普段の業務を改めて見つめ直す機会にもなったものと思われます。講義を一方的に聴くだけではなく、参加者自身が考え、発言し、互いの考え方に触れることのできる、無名会ならではの和やかで有意義な研修となりました。
(文責:増田)

