研修委員長 増田 綾香
[はじめに]
知的財産の価値評価は、近年、破産・再生、M&A、スタートアップ支援などの実務の中で、ますます重要性を増しています。一方で、評価手法の計算方法を知識として知っていても、実際の案件でどの手法を選び、どの前提を置くべきかという「実践の壁」に直面する場面も少なくありません。
そこで今回の研修では、知財価値評価の実務に豊富な経験を有する岡崎真洋先生をお招きし、弁理士としての視点を活かした価値評価の全体像と、実務的な判断ポイントについてご講義いただきました。
[講義の内容]
本研修では、以下の流れで知財価値評価の実務を体系的に学びました。
- 問題提起:
「計算は“木”であり、プロセスは“森”」という表現のもと、計算式を知っていても実務で活用できない理由を明示。知財が一品物であるがゆえの評価の難しさ、他士業との連携の必要性が説かれました。 - 評価フローの全体像(7ステップ評価フロー):
目的定義・権利特定から定量試算・クロスチェックまでのステップを通じて、弁理士が担う役割と注意点が具体的に説明されました。 - 計算フェーズの深掘り:
- コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチを中心に、評価モデルとその前提条件の立て方を学びました。
- 寄与率の定性・定量的判断方法、割引率の設定とそのインパクトについても詳細に解説されました。
- ケーススタディ:
- 個人再生における著作権評価(インカムアプローチに基づく印税見込評価)
- 衣料ブランドのM&Aにおける商標評価(ロイヤリティ免除法+補足的手法)
- スタートアップの組織再編における特許移転評価(税務論点を含む)
- CGコード改訂に伴う無形資産開示対応
- 落とし穴と業際論点:
特許・商標・ノウハウなどそれぞれの知財における「価値が生まれない」リスクや、手法の選択ミスによる過大・過少評価の注意点を具体例とともにご紹介いただきました。
[所感]
本研修では、単なる数式やフレームの理解にとどまらず、評価の目的や情報の制約、他士業との役割分担など、実務で直面するリアルな判断軸が丁寧に提示され、極めて実践的な内容となっておりました。質疑応答やその後の懇親会においても、具体的な質問が積極的になされ、活発な議論がなされました。
弁理士が知財の専門家として価値評価に積極的に関与する意義や可能性が再確認でき、自身の専門性を活かしつつ他士業と連携する上での具体的な視座を得る貴重な機会となったものと思われます。

