研修委員長 増田 綾香
[はじめに]
特許出願において希望する権利を的確に確保するためには、単なる出願時のクレーム作成にとどまらず、その後の補正や分割出願を見据えた戦略的な設計が不可欠です。近年の判例動向や海外実務との比較を踏まえ、分割出願を『オプション権』として位置づけるという考え方は、従来にない新しい視点として提示されました。
今回の研修では、この分割出願を軸に、弁理士が実務においていかに権利形成をコントロールできるか、その具体的手法をご講義いただきました。
[講義の内容]
本研修では、以下通り分割出願を用いた戦略的権利形成について学びました。
- 新規事項追加と補正要件
「ソルダーレジスト大合議判決」をはじめとする重要裁判例を通じ、新規事項追加の判断基準を確認。課題との関係で不要な要素は削除可能であり、柔軟な補正や分割を支える理論が解説されました。 - 発明の課題とクレーム設計
発明の課題の認定はサポート要件・進歩性・新規事項追加の判断に直結します。課題の設定次第で補正や分割の余地が大きく変わるため、将来の柔軟なクレーム設計に備えて「中位概念化」を意識した記載が不可欠であることも指摘されました。 - 多様なクレーム戦略
用途クレーム、機能的クレーム、除くクレーム、数値限定クレームなどに加えて、「程度を表すクレーム文言」の活用も紹介されました。例えば「概ね」「ほぼ」「強く」といった表現を用いることで、実施例に過度に縛られない柔軟な権利範囲を確保でき、補正・分割の場面でも有効に機能することが示されました。 - 国際比較の視点
米欧中韓での実務的な取り扱いの違いが整理され、基礎出願の段階でどのように記載を工夫すべきかが示されました。
[所感]
分割出願を「後から取り出せるオプション権」として最大限に活用するという考え方は、理論面でも実務面でも極めて有用であると感じました。特に、明細書に潜在的な複数の発明をあらかじめ仕込み、競合の動向を見ながら段階的に権利化を進める手法は、企業の事業展開を支える強力なツールとなり得ます。
また、「課題の認定を戦略的に行う」といった視点は、単なる明細書作成技術を超え、弁理士が付加価値を発揮できる領域であることを再確認しました。豊富な裁判例を踏まえた解説により、今後の実務に直結する学びが得られた研修でした。


